アルバム
タイトル:SIREN
アーティスト:平沢進
曲数:11
一言感想
ポップな曲に騙されがちだが平沢作品の中でもかなり実験的
感想
むかしむかしあるところに、プラアパイマニーという王子がいました。見目麗しい青年で笛の名手でした。ある日海辺で笛を吹いていると、突然海の中から何者かが現れて王子の方へぐんぐん向かってきました。
それは鬼女・ピースアサムットゥでした。王子の美しい笛の音に惹かれてやってきたのです。鬼女は王子を小脇に抱えると海の中へと引きずり込みました。震え上がる王子。しかしとある島へ着くと鬼女は美しい女の姿に変わりました。
すると王子はたちまち恋に落ち、鬼女と一緒に島で暮らし始めました。しばらくすると王子と鬼女の間には二人の男の子も誕生しました。 しかしある日王子が海辺で笛を吹いていると、今度は美しい人魚が海の底から上がって来ました。王子は人魚の姿を見ると恋に落ち、二人は一緒に駆け落ちしてしまいます。
それを知って怒り狂った鬼女は二人を追いかけます。王子と人魚、絶体絶命のピンチ。
その時二人の息子がそこに駆けつけました。お父さんを助けるために一生懸命逃亡を手助けする息子。それでも鬼女は二人を追いかけ続けます。 王子は腰から笛を引き抜くと、鬼女に向かって笛を吹き始めました。それは相手に死の呪いをかけるという恐ろしい曲でした。
鬼女はみるみる弱っていき、愛する夫に裏切られた悲しみでとうとう死んでしまいました。こうして王子と人魚、そして二人の子供たちは仲良く暮らしましたとさ。おしまい。
納得出来ない人魚伝説「ワット・プラヤイ寺院2」【タイ】より引用
平沢進の6枚目のアルバム。
本作はAURORA以上に実験的な楽曲が多いアルバムである。
一見、聞きやすい楽曲が多いアルバムだと思うが実際は、ほぼボーカルサンプリングだけの曲やノイズミュージックに近づいた曲、殆どがアカペラな曲など実験的である。
そして前までの平沢さんの特徴であった攻撃的なギターソロであるがDay Scannerしかない。というかギターをその曲以外は使っていない。
因みに後の作品ではギターソロが殆どの曲で出てくるのでこのアルバム限定である。
曲も今までのコンセプト・アルバム的な感じから一つのモチーフが定められているだけで後はバラバラである。
そのモチーフとはタイの人魚伝説「プラアパイマニー」である。
タイでは有名な古典物語らしく知らない人はいない物語だそうだ。
この話を聞いたらなぜこのアルバムでは頻繁に笛の音が流れるのか、なぜ最後の曲が「Mermaid song」なのかという疑問が一気に解決した。
ただ、この物語からこじつけた曲も多そうなのでプラアパイマニーは参考程度ではあろう。
いわばムーンライダーズの「カメラ=万年筆」の平沢進版である。
曲調
このアルバムから平沢さんの特徴であるオーケストラ+電子音がほぼ全ての曲で使われている。
平沢さんの凄いところはオーケストラと電子音を違和感なく組み合わせられる所であろう。
近年は色々な曲でも見かける事は多いがオーケストラを人工的にするか電子音をオーケストラに寄せて溶け込ませるかの2択になってしまう。
ただ平沢さんはリアルなオーケストラと主張する電子音を両立させている。
これは並大抵の人には出来ない技である。
次回作はさらにリアルなオーケストラになるがオーケストラとブレイクビーツなどを合わせている。
歌詞
人によって色々な解釈があると思うが僕は「平沢進によるプラアパイマニーの解釈」だと思っている。
それに現代のタイの話やSP-2などの話を混ぜたら出来たという感じである。
冒頭にあった文を当てはめるとこんな感じであろう。
- ある日海辺で笛を吹いていると、突然海の中から何者かが現れて王子の方へぐんぐん向かってきました → サイレン *Siren*
- 鬼女は王子を小脇に抱えると海の中へと引きずり込みました → On Line Malaysia
- しかしとある島へ着くと鬼女は美しい女の姿に変わりました → Siren *セイレーン*
- 王子はたちまち恋に落ち、鬼女と一緒に島で暮らし始めました → Nurse Cafe
- ある日王子が海辺で笛を吹いていると、今度は美しい人魚が海の底から上がって来ました → Holy Delay
- 王子は人魚の姿を見ると恋に落ち、二人は一緒に駆け落ちしてしまいます → Gemini
- それを知って怒り狂った鬼女は二人を追いかけます → Day Scanner
- 鬼女に向かって笛を吹き始めました。それは相手に死の呪いをかけるという恐ろしい曲でした → Siam Lights
- こうして王子と人魚、そして二人の子供たちは仲良く暮らしましたとさ → Mermaid song
問題は電光浴が何なのかである。このプラアパイマニーのストーリーには全く必要はない。僕の解釈であるが電光浴は1は話の紹介で2は場面転換だと思っている。
ただ前述の通り参考程度なので影響しているのは曲順と曲調だけかもしれない。
ライブ
この頃のインタラクティブ・ライブ「架空のソプラノ」も実験的であり近年のインタラに通じる。
この時代から世界観を重視し始めておりストーリーに物凄いブラッシュアップが施された。
なんと平沢さんは殆どの曲で檻の中に閉じ込められている。しかも代名詞であるギターも全く使わず檻の両脇にあるキーボードで演奏する。
面白いのがMiburiで映像コントロールをしている。しかも平沢さんはVRゴーグルを付けて。
この頃にVRゴーグルがあるのも驚きだが楽器で映像コントロールをしているのも驚く*1。
後半のMiburiの使い方は映像コントロールが主になっており最後に使われたSOLAR RAYでやっと本来の使い方をした感じである。
このライブで見納めになったのはチューブラヘルツである。このライブ以降は登場しない。
どういう楽器なのかと言うとチューブラーベルを逆さにした楽器で筒状の物を引くことで(下にあるシンセサイザーの鍵盤に当たり)音がなる楽器である。
初披露が1992年の解凍P-MODELのライブなので4年しか使われていない。
しかし相当インパクトはあったようで平沢さんが作った面白楽器でも意外と知名度がある。
架空のソプラノでしか演奏されていない曲も少なくNurse Cafe以外は近年のライブでは全くやっていない。
Switched on-Lotusでアレンジされた曲も多いが...
総評
壮大なオーケストラに電子音、そして実験的な作風という一風変わったアルバムである。
そして、これは「プラアパイマニーインスパイアアルバム」である。近年流行りのインスパイアソングみたいな感じである。
プラアパイマニーを見ると意外と解釈が分かりやすいのでこのアルバムを理解するためには一回見たほうがいい。
次回作は「メジャー時代の最後の作品にして最高の作品」である。
平沢さん自身も手応えがあったのか近年のライブでも大体の曲をやっている。